2010年2月5日金曜日

国栄えて山河なし

水、木曜日にアユの種苗を仕入れに秋田県へ出向いた。久しぶりの冬の秋田だったので、雪見風呂にでもひたろうと北部の山間部の宿を選んだ。青森県との県堺ちかくの旧森吉町、白神山地のふもとに位置する。米代川の支流阿仁川の源流となる森吉山の中腹の一軒宿に泊まった。周りは自然という形容詞では表現できない秘郷であり、熊などの野生動物の生息域のど真ん中である。阿仁のマタギが祈りをささげてから入山した神の山、丸腰の都市部在住人間なぞ一日も生きられない世界である。


その宿への道中、最後の集落を過ぎ、携帯が圏外になり、眼前の冬山に畏怖を感じ、別世界に身を置く事の興奮が湧きたった頃、突如現われたのはダムの工事現場であった。その賛否の議論は他に譲るとしても、人間社会の利便と相殺で失われる他の生物の生息域は広大である。原生林は伐採され山肌を露出、ダムの下流域の河川の水族は激減、当然海域への影響もある。マタギを始めそこへ住む人々が祈りをささげた山が、治水、利水が名目の公共事業にジュウリンされていく。傷ついた神の山が与える罰は後世に露呈する、現在のダム施工者たちの存命中にそのツケがまわらない事が罪深い。